過去の想い出に強くリンクしてしまった曲。ありますよね。楽しかったあの時、辛かったあの時を思い出す曲。
凄い大好きで良い曲なのに、うっかりやばい時に聴いてしまって、キツイ経験とリンクさせてしまうという失態。
本当に良い曲で、本来の内容としても辛い体験とリンクしてしまうのに、どうでも良い過去の陰キャムーブともリンクさせてしまった悲しき曲。
Gacktのこの誰もいない部屋で。傑作アルバムMarsのエンディングを担う、本当に良い曲なんです...けどねぇ。
しょーもない話を先にしてしまいましょう。
あれは春だった。新生活が始まる正にその時期。新しい舞台に移った時によく行われる、「懇親の場」。
1泊2日のイベント。いわゆる強制参加だ。林間学校が行われるような、山奥にコテージとスポーツ施設、公園が集まったような場所。バスで集団で拉致されて、寝食を共にして仲良くなろうぜ!的な。
それはもう、陰キャにとっては地獄の仕打ち。辱め。恥さらしの場。
しかも修学旅行のような手取り足取りではない。数人毎に泊まるコテージの部屋割りこそされたものの、その場に放り出すだけで計画等は無し。それぞれ好きに何かやれや、みたいな形。〇時に集合、あとは流れでコテージに行って泊まる、と。
若者達の集まりだ。その辺りは誰ともなく、何ともなく、上手くやっていく。普通の人はそうらしい。
テニスコートで楽しくテニスにいそしむ者。サイクリングコースで楽しむ者。はたまた高そうなカメラを持ち出して、良い写真を撮り集める者。なんだかんだでグループが出来、なんだかんだでイベントがこなされる。
さて...真の陰キャはどうなると思う?
呼ばれてもいないのに、適当なグループに加わって端っこでぽつんと独り?いやいや、グループに加わることが出来るだけ凄い人よ。
グループに入れぬ余り者になって、陽キャ達におなさけで世話される?いやいや、自分余ってるよーアピールなんて、陰キャは出来ないよ。
仮病を使うなりなんなりして、そもそもイベントに不参加?いやいや、そんな大胆な決断が出来るほど意志強くないから。
回答:集合場所から一歩も動かず、ただただ音楽を聴き続ける。
これを聞いてちょっと引いた人、あなたは正常だ。だってこの後、ある意味強制的なグループに分かれてコテージで泊まるんだよ?
正直、その後の具体的な記憶は...無い。覚えているのは、この曲とアルバムMarsを何回も何回も聴いてたことだけ。当時はMDでね。
詳細な記憶がないのは、あまりの苦痛を避けるため、脳が記憶を上手いこと消去してくれているのかも知れない...
てなもんで、自分のくだらない過去とリンクしてしまったこの曲ですが、本当に良曲です。
何しろまずはMarsが良い!その後の色んな曲も追って来たけれど、アルバムと楽曲の出来やまとまりは、Gacktの歴代トップクラスに入ると言っても良いと思う。
ハードなギターサウンド。物語性溢れる世界観。言わずもがなの歌唱力。起承転結のメリハリが効いていて、dears→OASISと迫力満点のクライマックスが展開された後、静かに締めくくるエンディングとして用意されるのが、この誰もいない部屋で。
Gacktの好きなところは、常にまとった「哀しみ」。
誰だって、何かを失ったことがあるはず。それは物かもしれない。夢や尊厳のような概念かもしれない。そして大切な誰かかもしれない。
あらゆる物語に登場する世界を救うスーパーヒーロー達だって、大切な何かを失い、耐えがたい悲しみを背負いながら、何かを成し遂げているもの。
その様を表現する姿勢は、ある意味で王道中の王道であり、ジャンプ漫画のようであり、厨二心に刺さること間違いなし。
この曲では、恒例の「ロックサウンドならではの迫力あるバラード」の中で、繰り返し繰り返し、この言葉が歌われる。
どうして 誰もいないこの部屋で 涙が流れるんだろう
本当だったら、居るはずだった。今もこの部屋に、大切な人が居てくれるはずだった。そのために頑張って来たのに。そのために生きて来たのに。
必死になって、苦しみも耐え抜いて、たどり着いたこの場所に誰もいないなんて。一体何の冗談だよ。
けれどこの「楽曲」は、悲しいだけの雰囲気ではない。壮大な物語Marsのエンディングを飾るのにふさわしく、大団円をも感じさせるような迫力もある。
誰もいない...けれど、たどり着いたこの部屋は、この場所は、決して価値のないものでははずだ。
失ってしまったものはあるけれど、それでも進んでいくしかない。ここまで進んで来ることは出来たんだ。それもまた価値のある人生と言って良い...はずだ。
しかし、曲の最後の最後で、音が静かに、着実に、歪んでいく。まどろむように、安らぎの世界はゆっくりと壊れていく。
こうした曲の終わり方がまた、良く表現していると思うんです。
「辛いけど、大変だったけど、良かったね。この先も生きていこうね」というどこまでも正しい言葉で、綺麗に締めくくるなんて出来ない、人生の現実・リアルを。
この曲は、Marsという物語のエンディングを迎えた主人公と、幸せだった部屋に独り残ってしまった自分とを重ね併せる。
更には、誰もいない集合場所で独りMarsを聴いていたあの頃の自分と...
いや、お前はいいよ、お前はそのまま、想い出の中でじっとしていてくれ...