田舎者にとって、新年の幕開けはとても静かなものです。
除夜の鐘が響く?いやいや、除夜の鐘の音が聞こえる場所なんてもはやCityだ(言い過ぎ)。すっかり乾いてどん底まで冷え込んだ空気、どこまでも続く静けさ。ぽつりぽつりと遥か遠くに見える灯り達を尻目に、静かに登って行く太陽だけが、新しい年の幕開けを告げる。
新年に聴くべき曲。これしか思い付かなかった。
人間椅子の黄金の夜明け。実際にやってみたことはないんだけれど、初日の出を眺めながらバックにこの曲を爆音で流すということをやってみたい。それはもはや神々の遊び...
東洋の雰囲気をこれでもかとまとったギターサウンドで幕をあけるこの曲。さらっと弾いては居るけれど、まずこの音自体がえぐぃ。ギターの一音一音が練りに練られた熟達の音。
続いて緊張感たっぷりのベースの一撃が重ねられ、少しずつ形作られて行くサウンドのぶ厚さは、もう界隈で飽きるほどに語られる「これ三人の出す音の厚みじゃねぇな©カミナリ」というセリフを今更に口に出さずにはいられない。
そこへ待ってましたとぶちこまれるは、白塗りの大漢が放つ咆哮。和製シャウトとでもいうべきか。これぞ正に彼らにしか出せない音。
あ、安心してください。この方はちゃんと人間ですよ。妖の類ではありません。
重く、湿り気と粘り気を持つドゥーミーなリフ。これまた糸を引きそうなほどに陰鬱な歌声。差し込まれるは大正時代の語りと見紛うばかりの特徴的な合いの手。
続いてツインネックのギターから繰り出されるギターソロは旨味に溢れた超絶技巧の為せる技。速い!カッコいい!といったメロスピのようなギターも良いけれど、プログレ味をまとった濃厚な旋律は一度味わうと癖になる。
確かに速いけれど、音の粒がしっかりと立っており、速過ぎて何を弾いているか解らない、なんていうことがない。旋律がはっきりと耳に届き、哀愁や説得力のようなナニモノカをまとったサウンドの迫力は圧巻の一言。
十分に一曲として成り立つだけのエネルギーを受け取ったところで待っているのがメインディッシュとなる幕間。
如何とも表現し難い浮遊感や非現実感を纏ったベースの音色が鳴り響く。どこか宇宙さえも想起させるようなベース音を背景に、「これ...ギターで出せる音なの?」と驚くべき旋律が重ねられていく。現代であれば、DTMよろしく様々な音色を重ねて作り出しくなるような世界観を、ギター一本で表現しきってしまう離れ業。
この間奏部には歌詞は登場しないけれど、曲を聴いた人はある時点の展開で、はっきりと「輝く朝日」や「夜明け」という概念を連想することと思う。重く、暗い夜が支配する世界に光が差していく姿がありありと脳内に映し出されて行く様。これがたった3人、たった3つの楽器による犯行というのだから...
あまりにも当たり前のことだけれど、音楽って芸術ですよねぇ...
更にはこの部分、ベースは実にシンプルな音を繰り返すだけではあるんだけれど...このえげつなさ、お解りだろうか。
ここからの展開、ドラムは場を飾るように演出してはくれるものの、リズム隊としての役割は果たさない。一方でギターは縦横無尽、自由奔放に様々な音色を奏でていく。
そして後半はプログレ感たっぷりに繰り返されるギター音と一定のリズムで刻み続けるベースが、違うリズムなのに、重ならないリズムなのに、なぜか重なって行くという気持ちの悪い気持ち良さ。
なんなら当の二人は少しずつ歩み寄り、不協和音ならぬ不況リズム?の中、二人で共にノって見せる。リズムにノるなんて生易しいものではなく、まるで流れる大河に身を委ねるかのように。遂に合流してくるドラムに後押しされるように、ライブ会場全体を大きな何かが包み込んでいく。
この人達、クリックはおろかイヤモニも使わないんですよ?
さぁさぁ宴もたけなわ。夜明け、幕開け感をたっぷりと味わったところに放たれるのが、クライマックスに向かっていく必殺の「ヘヴィメタル部」。
ここまで十分にリフやギターソロを味わって来たのに、ここへ来て新たな激重リフとギターソロが圧倒的な迫力で襲い掛かる。この部分だけで一つの曲を構成出来るほどに旨味溢れるサウンドを贅沢に注ぎ込んだクライマックス。
ここへ至るまでの展開は全て、ラストを味わうために貼られた伏線かのように、最後の最後にとんでもない爽快感をぶちかまして楽曲は締めくくられる。
もちろん歌詞の世界にも多くのエッセンスが封じ込められているのだけれど、長くなってしまったので最後に語られる部分を引用させていただく。
今いることの信仰に
あると思うな永遠の国
祝福されぬ闇の中
そして現る 黄金の夜明け
時は2023年。今正に、黄金の夜明けが訪れたわけです。
さぁ、いっちょやってやりましょうよ?