あーだこーだと述べさせていただきました「久しぶりの有給休暇」ではありましたが、その最後の締めくくりは散々なものでした。
一通りの後片付けも終わり、寝床の準備をして、電気を消す。
まだ消して居ないテレビから放たれる淡い光。
横になり、一瞬床を這いまわるような位置にセットされる私の視線。
そこで、見てしまったのです。
まるで月明かりの如く、電子機器の光に照らされる黒い物体。
忙しなく蠢く無数の細い足。
雷光のように走り去る忌まわしきその姿。
そう、ゲジゲジである。
ここで会ったが百年目!やつを叩き潰すべくティッシュの箱を素早く右手に。
狼煙をあげるがごとく灯りを付けるために照明のリモコンを左手に。
そして素早く起き上がるその姿、中年にしては中々に勇壮ではありませんか。
憎き奴をこの手で仕留め、安息の睡眠を我が手に!
なのだけれど...居ないのです。
確かにやつは素早い。けれど目撃したのは部屋の中央です。
こちらも素早く電気を付けたし、殺風景な部屋はマジで物が少なく、隠れられる場所なんて限られています。
夏の夜ですからエアコンを付けているし、ちゃんと部屋も閉じられている。
そりゃあ狭い隙間からの逃げ出せるとは言え、ほんの一瞬。私の本能が告げます。
やつはまだここに居る。
よいよい。明日は土曜日。じっくりと相手をしてやろうではないか。
最新の注意を払いつつ、数少ない隠れ場所となり得る物を片付けて行きます。
リモコン、クッション、そして布団。
終には、床には何もない状態まで片付いたものの...やつの姿はありません。
ほほぅ、そうかそうか。テレビ台の裏等に逃げ込んだか?賢しいやつめ。
ならばこちらは文明の力だ、と言わんばかりに殺虫剤を手に取り、ちょいちょいと狭い隙間に吹き掛けます。
これでやつもたまらず逃げ出して来るであろう...と思いきや、反応なし。
電気を付けた上に懐中電灯まで持ち出して念入りに捜査するも、終ぞ彼の姿を捉えることは出来ませんでした。
さて...ではどうする?ということですよ。
さすがに私も中年。都会育ちの乙女ではありません。
虫こわ~い!こんな部屋じゃ眠れな~い!と嘆くほどではないにしろ、さすがに彼が闊歩する床に再び布団を敷くのは気持ちの良いものではありません。
エアコンが効いているが故に密室のこの部屋。確かに居たやつの影。暗い場所を好むやつのことだ。電気を消せばたちまちに動き出すに違いない。
このくっそ暑い時期でなければ、さらっと別の部屋で寝ることも考えられました。
それにエアコンがある部屋はもうひとつありますし、そちらで寝るということも手間ではありますが不可能ではない。けれど、わざわざ虫一匹のために...
結果、ハントと睡眠を両立させる明暗を思い付きます。
全体を見渡せる部屋の隅っこに陣取り。
最低限の枕代わりのクッションとNクール、そしてやつを仕留められる武器を手に。
タイマーをセットしたテレビで静かにYouTubeを流し。
照らされる床にやつの影を見付けたら、全力で狩りに行く!
寝ちゃったら寝ちゃったで、それもまた良し。
結果、ご想像の通り二度と彼は現れず。
家主の私はまるで彼を恐れるように部屋の隅っこで丸くなり。
狩りでいっぱいになった私の脳は、昆虫フルコースな夢を見せてくれます。
見付けた!→仕留めた!→あれ?夢か...
を何度も繰り返し、気が付けば朝ですよ。当然ぐっすり眠れたわけもなく。
結論、久しぶりの有給休暇なんて、ク〇みたいなもんでしたわ。