先日発売されました人間椅子の最新アルバム『四苦即是空』。購入から数日が経ち、何度も何度も聴き重ね、ようやく各曲の持つ味わいに触れることが出来て来ましたので、久しぶりに楽曲について触れてみようかなー、なんて思っています。
先日も少し触れたファンファンファファン♬でお馴染みの宇宙電撃隊とか、触れたい楽曲は数あれど、やっぱり人間椅子と言えば、まずはラストの大曲でしょう。
8分近い尺と怒涛の展開。
五臓六腑に突き刺さる歌詞。
今回のラストを飾る『死出の旅路の物語』。いつもの通り、ヤバい仕上がりです。
ひとつのアルバムを聴き終えた『読後感』的なものを演出するラストの大曲は、アルバムの印象を大きく左右する大事なポジション。
うわ~い!楽しかった~!と、気持ち良く前だけを向いて終われないのが、ドゥーム味をまとう人間椅子の醍醐味でもありましょう。今回もまた、じっとりと染み渡る読後感をお届けしてくれますよ。
しかし、今回のアルバムではMVは無いんですかね~。
リンクのサンプルから聴くことが出来る約30秒間のイントロ。
この時点でラストの曲だなーと想像がついてしまう、演出されたクライマックス感。苦しみや悲しみや、不穏な空気をまといつつも美しい旋律を浴びた我々は、嫌が応でもクライマックスに向けて身構えることになります。
そして、何はともあれ人間椅子と言えば最高品質のリフ。
1にリフ、2にリフ、3・4もリフで5もリフです。これ、テストに出ますよ。
ラストを飾るリフはシンプルな疾走系。今作はアルバム全体を通して、疾走感を感じる曲はやや控え目なバランス。
疾走系大好きな私が少しだけモジモジしていたところに、「待ってました」と言わんばかりに放たれるこのリフに、歓喜せずにはいられません。
このリフのシンプルさには、毎度毎度驚かされますね。いつもの事ながら、譜面通りに弾くだけなら一瞬でコピー出来るようなシンプルさ。なのにこの重さ、このカッコ良さ。これぞ彼らの真骨頂ですよねぇ。
そして、人間椅子的には少し特徴的なギターの音色も挿し込まれたりしています。数十年のキャリアの中で数えきれない名曲を創りつつも、しっかりと「この曲ならではの特徴」を付けることを忘れない抜け目の無さ、さすがです。
そりゃあ、おおまかに分類すれば「似ている曲」は存在しますが、「この曲はこの部分が特徴的で、ここを聴きたくなる」というのがちゃんと用意されているんですよねぇ。
更に個人的に好きな構造として、この曲のメインディッシュがあくまでも「オープニングで魅せる不穏さを纏う美しい旋律」と「メインのリフ」である所ですかね。
この二つを際立たせるためか、サビや中間部は疾走するというよりもテンポを落とした雰囲気で、クライマックスの展開はメインのリフ⇒オープニングの旋律という作り。ここで最初の旋律が来るのか!?という展開、好きなんですよ。
さてさて、タイトルからして『死出の旅路の物語』。歌詞の内容の方も、もちろん和嶋節が全開であります。
前作のラストは夜明け前。良くも悪くも時は進み夜が明ける、という内容でありましたが、今回はストレートに死出の旅路を歩む歌。正に終わりに向かう唄。
以前、『三途の川』というストレートな楽曲もありましたが、そちらは三途の川というキーワードによって若干のフィクション感がありましたが、今回はド直球です。
生はまにまに やがては終わる その日は誰も 知らない
何をなしたか なさずにいたか その日はじめて 知るのだ
いきなりこれですよ。一定の年齢を重ねた我々世代にとって、なんとも耳の痛い、現実感しか無い、重い重い言葉。フィクション感なんてゼロ。すぐそこにあるリアル。
しかも、こんな始まり方をしておきながら、最後のクライマックスの展開でも、情け容赦のない歌詞で締めくくられて行きます。
険しく辛い みちのり
寂しく遠い みちのり
苦しく寒い みちのり
死出の旅路の みちのり
おい、エンタメならでは「救い」はどこいった?仕事しろ!
こんな救いのない歌詞が、超絶カッコイイリフに載せて歌われていくのです。
そして最後にオープニングで魅せた不穏な旋律がカッコ良さを増して響き渡り、このアルバム『色即是空』は幕を閉じます。
超絶カッコイイ音に載せて、決して逃げられない苦しい現実を歌う。
儚くも美しい旋律と共に物語を締めくくる。というこの演出。
いつか終わりが来てしまう。これはもう、どうしようもない。
どうせ険しいなら。
どうせ辛いのなら。
どうせ寂しくて、遠くて、苦しくて、寒いみちのりから逃れられないのなら。
せめて少しでもカッコ良く、せめて少しでも美しく、歩いて行こうではないか。
そう励まされているような気がするのは、私だけでしょうか?