中年になった今も、ほんの時々、子供の頃の夢を見ることがある。
小学校くらいの頃。無邪気で、純粋で、今思えばなんとまぁイージーモードな日々だったんだろうと思う一方で、当時は当時で色んな想いがあった気もする。
あの頃の自分は、今の自分を想像することが出来ただろうか?想像しようともしていなかったろうなぁ。
なんてまぁ、ノスタルジックな気分になる日もあるわけで。
そんな気分の時に聴くのにぴったりなのが、このMUCCの昔子供だった人達へ。
つまり、大人になった人達みんなに向けたメッセージ。
聴き終わる頃には、甘酸っぱくほろ苦い、夢の跡のような気分に浸れます。
MUCCというバンドをカテゴリー分けしようとしたら、一体どこに当てはまるんだろうか?MUCCを好きな方であれば、「MUCCは...MUCCだな」という結論に賛同してくれることと思う。
時には激しくメタルのように、時には情念たっぷりの歌謡曲のように。その時表現したい物を、より的確に表現するために。奏でる音は変幻自在。
そこへ載せられる歌詞の世界観が、それはもう、MUCC!としか言えない、唯一無二の世界観を醸し出す。
重く苦しい「業そのもの」のような曲。
愛や人生を儚むかのような繊細な曲。
希望を感じさせるような勇ましい曲。
本当に様々な楽曲があるものの、その全てに微かな「哀愁」のような、独特の薫りが漂っている。
そしてこの曲、「昔子供たった人達へ」では言葉で中々言い表せない複雑な感情を想い起こさせてくれる。
大人になったある日のこと。ふと振り返る。顧みる。思い起こす時にふと襲われる、心をふんわりと握り潰されるような感覚。
まるで物語が語られていくかのように、実に率直に表現された歌詞が紡がれていく。
絵に描いたような子供時代。
青春の少し前くらい。
ただ純粋に、毎日を全力で楽しんでいたかのうような。
ああ、そんな時期もあったなぁと懐かしむ頃合いに、このフレーズが心に突き刺さる。
君は何を抱え、何を捨てて大人になった?
この表現、本当に上手いなぁ、と思う。
大事にしている物と、諦めた物。
あの頃と変わらない物と、変わってしまった物。
誰にでも当てはまる、思い当たるところはあるんじゃないだろうか。
そしてとどめの一撃であえなくKO。
タバコを吹き散らして、しぼんだ夢ぶら下げて、今日が終わるのを待ってる。
今日が終わるのを待ってる...初めて聴いた時に本当にドキッとした。
明日は何があるのか?と、明日を待ち望むことなんてもう無いに等しい。
いつしか大人なった私達。不平不満や苦しみをまき散らして、ただ毎日が終わるのを待っているだけのつまらない存在になり下がってしまっていないだろうか?
複雑な想いを抱いたのも束の間。紡ぎ出される歌詞は一度なりを潜め、ギターの音に優しく包まれる。優しく軽やかに、不思議と昔を懐かしむかのような音色。よく考えたらこういう部分の表現力もすげぇな。
そして物語はエンディングへ。
痛みを避ける大人になって。
夢は見ずに日々を消化して。
僕らは何になった?
何になれた?
うーん。唸ってしまう。
自分はナニモノかに成れたんだろうか?
何かになりたい、という素敵な夢を持っていたわけではなく。曰く、人並みに挫折もして苦労もして、結果としてたどり着いた今の場所。
ここまで来れたよ!やったぜ!と笑顔で言い切れる人がどれだけ居るだろうか。
自分の居るべき場所はここだ!と胸を張れる人がどれだけ居るだろうか。
そんな煮え切らない想いを手の平で転がしながら。
気が付けば今日もまた、今日が終わるのを待っている。