マイツの小部屋

陰キャのための音楽ライフ

チラシの裏_025 フラジャイル24巻

読みましたー。今回も色々とえぐかったですねぇ。

この24巻まで読んできて、自分はフラジャイルという作品の中に、何を求めているのか?何を楽しんでいるのか?ということをちょくちょく考えるんです。

専門的な病理医という存在についての話?医療という世界を取り巻く物語?特徴的なキャラクター達の魅力?今の時点での結論は、

 

医療をテーマの中に在る、「大人が社会で生きていく姿」の熱い物語。

 

自分が感動するところはいつもここだった気がします。医療が上手く行った、患者さんが良い方向に向かえた、ということは意外と読み流している。病理医という専門的な部分は、某ツイ廃病理医先生のブログを読破しているくらいの廃人なので、答え合わせというか、うんうんそうらしいよねー、くらいに摂取してしまっている。

 

いつも心がゆれ動くのは、大人達が賢明に全力で走る姿を目にする時。

岸先生の、自身は変人に見せつつも誰よりも人々や社会を見つめる姿を垣間見た時。

森井くんの不器用でも真っすぐなやさしさを見てきゅん死しそうになる時。

ザッキーがぐいぐいと成長する姿と、それを見守る周囲の姿。

 

様々な登場人物たちが、それぞれの「自分の足場」から最前手を打ち続けていくことで、チームが、社会が回って行く姿を見せ付けられていく時。今回の24巻でも、実に熱く、燃えたし、萌えたね。

「私には、私にできることしかできない...」と嘆くザッキー。けれど、色々な人の背中を見ることで気付きを得て行った結果。ほぼ同じ意味と言葉なのに、気付きを得た今となっては背中を押されるコメントをもらい、確信をもって誇らしげに胸を張るザッキー。

 

もうやめてくれ、全読者を萌え死させる気か...

 

そして本当にこの漫画の凄さを感じるのはその直後。軽口を叩くやりとりの直後の、「ふぅっ」と息を付く岸先生と菩薩のような表情を見せる森井くんの「一瞬」を描いてみせること。

 

もうやめてくれ、全読者を萌え死させる気か...

 

物語を少し遡り。

「ずっと上手くやれるんだよ、仕事も人づきあいも何もかも。」

これは諭す言葉でもお世辞でも何でもなくて。心からの本心であるし、能力やスキルだけではなく総合的な「ひと」として、信頼して認めている証でもあるし。

実際に24巻では岸先生には出来ないムーブでザッキーが活躍し、岸先生含むみんなが、それぞれの役割をそれぞれにこなして物事を前に進める姿を描くことで、しっかりと伏線を回収しつつ物語に説得力を持たせる。人であり、社会を描く。

 

そして読者の方々は私と同じように、自身の生活や経験に照らし合わせて行くんだろう。自分は年齢や立場的に岸先生側になるのかな、あんな能力ないけど。

そうなんだよ、君らはホントに凄いんだ。特定のステではそりゃこちらが優れている点もあるさ、けれど大事なのはそうじゃないんよ。君らは君らの、君らにしか出来ないことを全力でやって欲しいんだ。そうすれば、それ以外のことは仲間が全力で応えてくれるんだから。

 

 

 

でもねぇ、この漫画、結構読むのしんどいんですよ。漫画であるということは理解しているし、エンタメとして摂取することも出来ているんだけれども。それでも扱っているテーマがリアルな医療であって、特定の難解手術にフォーカスした劇場型の物語でもなくて。自分のような、「実際にガッツリとリアルな地獄の場面を体験した人」にとっては、いささか重すぎる面も多い。

 

色んな思いを持ってしまいますよ。

現実はそうはいかねぇ。

人の気持ちも考えも状況も、そんなに白黒はっきり出来ねぇ。

to be or not to beに分かれていく世界。

 

そんな中で奮闘してくれる医療従事者。どうしたってなくならない限界。荻野目先生の考え方も、理屈として非常に「解る」。物語で描かれている1つのレアケースの向こうには、数えきれない「ノーマルケース」の終わりを迎える以外に手の無い人が居る。

もちろん、これに対する議論もよく解る。答えは出ない、議論することが大事なんだろうけれども、我々に残された命はたった一つずつだけ。

 

最終的に良い方向に進むエピソードを観て、心の底から「良かったね」という想いに満たされない自分のリアルな人間性とも向き合うことになる。「当事者であった」頃の自分も既に読んでいたから、この描かれ方の妥当性みたいな物もよく解る。

何もかも上手く行きました、ハッピー!と描くには現実は辛すぎるし。現実は辛いよね、と救われない結末ばかりを描いては、リアルに救われて欲しい人達の、限られた時間を一層苦しめることに成り兼ねない。

それでもすすっと面白く漫画として摂取出来るのは、冒頭に書いたような「医療を通しているだけで、描いているのはひとの物語」という側面の面白さが群を抜いているからなんでしょう。

 

難しいテーマですよ。本当に上手くバランスを取ってエンタメにしてると思う。ガチ中のガチの内容からして、ド素人が想像で描くのとはほど遠いし、作者様も常に色々な葛藤の中で、物語を紡いでいるんだろうな。そんな苦しみを経ても、届けたいメッセージがあるんだろう。

少しでもそんなメッセージを受け取りたいものですねぇ。